書評「弟は僕のヒーロー」ジャコモ・マッツァリオール著――「違い」という視点。

今回は本の紹介です。ジャコモ・マッツァリオールさんが書いた『弟は僕のヒーロー』という本を読みました。イタリアの実話をもとにした小説で、日本語訳は関口英子さんによるものです。表紙のイラストはヨシタケシンスケさんが書いています。
兄弟の物語
著者のジャコモさんには、ジョヴァンニさんというダウン症の弟がいます。この本は、その実の兄弟の関係をもとに書かれた物語です。
著者のジャコモさんは1994年生まれ、イタリア出身です。この物語は、ジャコモさんが実際に弟のジョヴァンニさんとの日々をネットで公開したことがきっかけで生まれ、後に映画化もされています。原題は『Mio fratello rincorre i dinosauri』、直訳すると「僕の弟は恐竜を追いかける」という意味だそうです。ジョヴァンニさんが恐竜好きだったことに由来するタイトルで、本編を読むとその意味がより深く感じられます。
ジョヴァンニさんが生まれてから、ふたりが少しずつ成長していく姿が描かれています。うまく受け入れられる時もあれば、そうでない時もある。ジャコモさんは色々なことに悩みながらも、家族の大切さや、自分に足りなかったものに気づいていきます。そして少しずつ、弟の見ている景色を自分も見られるようになっていく——そんなお話です。
10代の少年の視点で綴られているからこそ、飾らない言葉で率直な戸惑いや葛藤が描かれているのも、この本の特徴だと感じました。
「特別」ではなく「違い」として
障がいのある方が登場する小説やエッセイ、映画にはこれまでも触れる機会がありました。最近よく出てくるメッセージのひとつに、「障がい」ではなく「違い」として捉えるという考え方があります。
その人との関係において、「障がい」という特別扱いではなく、普通にその人の特徴として考えるという言い方がわかりやすいかもしれません。
私が今まで当事者の方やご家族の方とお話ししたときは、「自分の個性」という方もいるし、個人だったらみんなそれぞれ違いがあるからそのうちの一つという方もいます。はっきりと「障がい」は「障がい」であるという方もいました。難しいことだとは思いますが、私はそこにたくさんの様々な考え方があっていいのではないかとも思っています。
もちろん、現実はそう簡単には割り切れないことも多いはずです。学校や社会の中で、ジャコモさんが感じる周囲の視線や、自分自身の中にある戸惑いも、この本では隠さずに描かれています。それでもこの本には、ジョヴァンニさんの素敵な部分がたくさん描かれています。
みんなに挨拶をする男の子
印象に残った場面があります。お母さんがジョヴァンニさんを学校に迎えに行くと、彼は帰り際に全員に挨拶をしていました。相手がいじめっ子であろうと優等生であろうと関係なく、しかも一人ひとり違う挨拶を。
お母さんが驚いたのは、挨拶をされた誰もが笑顔になっていたことです。この出来事を話した後に、家族がこれからもジョヴァンニさんの生活を見守っていこうと、あらためて心に決める場面が出てきます。
この話も、特別なこととしてではなく、誰にでもあり得ることとして描かれているのが印象的でした。誰にでも、周りを笑顔にする力がある。そのことを、この本はあらためて教えてくれます。
意外と大事なのは、するかしないかということなのかもしれません。
気負わず、当然のように、目の前の人に挨拶をする。
それだけのことが、実は簡単ではないのかもしれないと思わされました。
全体を読むと感じてもらえると思いますが、少なくともこの本の中のジョヴァンニさんは「何も迷わずに当然のようにあいさつをしている」のだと想像することができます。
家族という関係の中で
この本を読んで感じたのは、ジャコモさんとご家族が、ジョヴァンニさんを「守るべき存在」としてだけ見ていたわけではないということです。
時にぶつかり、時に励まされ、お互いに影響を与え合いながら関係を築いていく。その過程には、特別な感動的エピソードというより、どんな家族にもありそうな、ごく普通のやりとりが積み重なっています。だからこそ、読んでいて自然に受け入れられる物語になっているのだと思います。
言葉にしきれない魅力
と、ここまで書いて感じるのは、正直なところ、この本の良さを言葉だけで伝えるのは難しいと感じています。あらすじを説明しても、実際に読んだ時の感覚とは少し違ってしまう気がします。
時間があるとき、気持ちに余裕があるときで構いません。よろしければ、一度手に取ってみてください。それが、この本について一番伝えたかったことかもしれません。
最後ですが、ジャコモさんがこの本を書くきっかけとなった「ザ・シンプル・インタビュー」の動画を張り付けます。この動画は2015年3月21日(世界ダウン症の日)に合わせて公開されたジャコモさんとジョヴァンニさんが作った動画を出版社が本の出版に合わせて改めて公開したものとなります。音が出ますで再生時にはご注意ください。

