第27回 車いすラグビー日本選手権大会 ― 雨の千葉ポートアリーナで感じた「熱狂」と「運営の進化」【レポート】

車いすラグビー日本選手権

12月14日、日曜日。千葉県内は朝から冷たい小雨が降り続いていました。

この日、私が向かったのは千葉ポートアリーナ。12日から3日間にわたって開催されていた「第27回 車いすラグビー日本選手権大会」の最終日です。

以前、このコラムhttps://www.funabashisports.com/501/でも書かせていただいた通り、私はこれまでに何度か車いすラグビーを観戦した経験があります。しかし、今回は単なる「観客」としてではなく、少しだけサポートする立場での参加でした。

「日本選手権」という名の通り、この大会は国内のクラブチームの頂点を決める最高峰の戦いです。予選を勝ち抜いた強豪チームが全国から集結し、コート上にはパリパラリンピックで金メダルを獲得した日本代表メンバーをはじめ、日本のトップクラスの選手たちが勢揃いしていました。

今回は、会場のリアルな空気感、そして改めて感じた車いすラグビーという競技の進化について、ふなばしスポーツの一員としてレポートします。

世界一を知る選手たちが魅せる「本気」の衝突

会場に入ってまず圧倒されたのは、やはりその「音」と「迫力」です。

車いすラグビーは、パラリンピック競技の中で唯一、車いす同士のタックルが認められている競技です。かつて「マーダーボール(殺人球技)」と呼ばれていた歴史を持つこのスポーツですが、日本選手権レベルともなると、その激しさは桁違いでした。

金属と金属が激しくぶつかり合う重い音が、アリーナの天井まで響き渡ります。初めて観る方であれば、思わず身をすくめてしまうほどの衝撃音です。

しかし、選手たちはその衝撃をものともせず、巧みなチェアワークで相手のディフェンスをかいくぐり、トライを狙っていきます。

特に印象的だったのは、やはりパラリンピックのメダリストたちのプレーです。世界一を知る彼らが、それぞれの所属チームに戻り、敵味方に分かれてバチバチに火花を散らす。その技術の高さ、圧倒的なチェアワークとスピード、そして「絶対に負けない」という気迫は、観ているこちらの胸を熱くさせるものがありました。

雨の千葉ポートアリーナと、それを超えるファンの熱意

ここで少し、会場となった「千葉ポートアリーナ」についても触れておきたいと思います。

千葉県内で大規模な屋内スポーツイベントを行う際、このポートアリーナは象徴的な場所の一つです。Bリーグの試合や、過去には多くの国際大会も開催されてきました。

ただ、実際に足を運ばれる方はご存知かと思いますが、アクセスに関しては少し工夫が必要な場所でもあります。最寄りの千葉みなと駅や千葉中央駅からは少し歩きますし、JR千葉駅から徒歩で向かうと15分以上はかかります。モノレールの市役所前駅が一番近いですが、そこからでも数分の移動は必要です。

天気が良い日であれば、ポートタワーを眺めながらの散策として非常に気持ちの良いロケーションなのですが、今回のように雨が降っていると、どうしても「少し行きづらいな」と感じてしまうのが正直なところかもしれません。特に車いすユーザーの方や、足元の悪い中を移動される高齢の方にとっては、なおさらハードルが高く感じられることでしょう。しかし、会場に入って驚きました。観客席は、比較的多くのお客様で埋まっていたのです。

冷たい雨が降る中、アクセスの手間をかけてでも「この試合を観たい」と思って足を運んでくださる方がこれだけいる。これは本当に素晴らしいことだと思います。

車いすバスケットボールや車いすラグビーなど、近年のパラスポーツは「障がい者スポーツの理解」という枠を超え、純粋に「面白いエンターテインメント」として定着しつつあります。

日本選手権レベルになれば、天候や立地のハードルを超えて人を呼べる。満員の観客席の景色は、この競技が持つ本来のポテンシャルの高さを証明していました。

運営から見えた「組織の成熟」

今回、参加して強く感じたのが、日本車いすラグビー連盟(JWRF)の方々の運営の素晴らしさです。

スポーツイベントの運営は、時に現場が混乱したり、情報共有がうまくいかなかったりすることもあります。しかし、車いすラグビーに関しては、協会の方々の対応が非常に手慣れており、運営全体がとてもスムーズだった印象を受けました。

ボランティアスタッフの方々も多くいましたが的確な指示出し、お客様への配布物の管理、動線の確保など、他の競技団体と比較しても一歩進んでいるように感じます。

これはおそらく、これまでに数多くの国際大会や国内大会を成功させてきた経験の蓄積によるものでしょう。各配置で働かれている方々が、安心して役割に集中することができ、とても楽しく活動に参加している印象でした。「支える側」が楽しめる大会は、間違いなく「観る側」にとっても快適な空間になります。この日本選手権は、千葉だけではなく、首都圏近郊や北海道、九州など、全国各地で開催されています。「自分の住んでいる地域でも見られるのかな?」と思われた方は、ぜひ日本車いすラグビー連盟の公式サイト( https://jwrf.jp/ )を確認してみてください。

協会の方が地道に、そして熱心に普及活動を続けてこられた成果として、皆さんの身近な場所でもきっと大会が開かれているはずです。

タイヤの跡と松脂の汚れ ― それは激闘の証

すべての試合が終わり、静けさが戻ったコートを見ると、そこには激闘の痕跡が残されていました。

無数についた黒いタイヤの跡。そして、選手たちがボールのグリップ力を高めるために使う「松脂(マツヤニ)」の跡。

施設の管理という視点だけで見れば「汚れ」かもしれません。しかし、これは、選手たちが一瞬の判断で急発進し、急停止し、激しくターンを繰り返した証拠です。

床に残る松脂は、汗で滑る手で必死にボールを掴み、味方にパスを繋ごうとした執念の証です。一試合終わるたびにコートが汚れていく。それほどまでにスピーディに動き回り、全力を出し尽くしている証拠が、あの床には刻まれていました。

Youtubeでの配信で試合を見るのも便利で良いと思います。しっかり解説もついていますので。一方でこの「タイヤの焦げる匂い」や「ぶつかり合う音の振動」、そして「試合後のコートの余韻」は、現地に行かなければ味わうことができません。もし可能なら、ぜひ、来年は皆さんも現地へ足を運んでみてください。ルールがわからなくても大丈夫です。解説もついていますし、配られる冊子には簡単なルールが記載されています。そして目の前で繰り広げられる「本気」のぶつかり合いを見れば、理屈抜きで心が揺さぶられるはずです。先ほども言いましたが車いすラグビー協会の方々の努力によって、会場での観戦は本当に普通の人がふらっときても十分楽しめるコンテンツになっていますのでぜひぜひ体験しに行ってみてください。

雨の千葉ポートアリーナでしたが、心は晴れやかに、そして熱く燃え上がるような一日でした。

ふなばしスポーツとしても、こうしたパラスポーツの熱気を、これからも地域の一員として応援し続けていきたいと思います。